あらすじ
「さあ、願いを言うがいい」「なら言うわ。とっとと帰って」王女コクランのもとに現れた、なんでもひとつだけ願いを叶えてくれるという伝説のランプの悪魔。しかしコクランは、願うことなど何もないと、にべもなく悪魔を追い払おうとする。なんとか願いを聞き出そうと付きまとう悪魔。しかし、“すべてを与えられた者”と謳われるコクランを取り巻く王族と後宮の現実を知ることになり…。物語を一人演じ続ける王女と、悠久の時を彷徨う悪魔の、真実の願いを求める恋物語。
作者:入江君人(神さまのいない日曜日で有名)
イラスト:カズアキ
2014/9/14富士見L文庫より発売
ツンデレ姫と悪魔とのドッタンバッタンなラブコメと思いきや…
これは実際にどんなジャンルに分類すればいいのかわからんよ…
※旧ブログから修正・加筆しております。
大国の王女と願いの悪魔
なんでもかなえられる立場にあるはずの大国の王女コクランと彼女が手にした魔法のランプに閉じ込められた願いの悪魔の物語です。
悪魔はアラジンと魔法のランプのように「3つの願いことを叶えてやろう」とコクランに告げます。つげる、のですが、コクランは悪魔に対して願いごとなど「ない」と言い切ります。
そんな王女コクランと彼女から願いを聞き出そうとする悪魔のどたばたコメディ…ではありません。
王国に隠された謎、コクランの秘密
大国の老王の唯一の娘。
願いの悪魔。
お伽噺のような二人は出会い、そして様々な出来事に出会います。
後宮が舞台なのですが、王のハーレムというわけではなく、貴族の子女たちの学院のような扱いになっています。
そんな場所なので登場人物の大半は女の子。
後宮特有のねちょねちょな嫌がらせもなく陰謀渦巻く世界ではありません。
黒髪の女王
コクランはかたくなです。
冷徹、とさえ思えるように冴え冴えとしていて曇りの日に上から降ってきた一粒の雪のように冷たい。
彼女はぶれません。
どこまでも大国の王女であり続けます。
王の娘であり続けます。
でもその冷たさは冬の夜の澄み切った夜風のようで、決して不快なものではありません。
解き明かされていく二人の真実はとても残酷で、
つきつけられる現実もまた過酷なものでした。
出会うべくして出会った「ニセモノ」同士の物語
どこまでも皇女であろうとしたコクラン
どこまでも悪魔であろうとしたレクス。
コクランは本当はやさしい少女です。
母親の愚かな過ちも父親の王として立場ゆえに冷遇も。
すべてを愛し、受け止めることができるだけの。
かなしいぐらい、優しい寂しいただの女の子でした。
コクランは、逃げることもできたんです。
悪魔の力を使って、皇女という身分から自由になることもできた。
でもそれをしなかったのは、彼女の矜持です。
そして彼女が彼女で在り続けた、そしてあり続けるための選択だったのだと思います。
でも、最後の最後、コクランは皇女であった己をかなぐり捨ててただ一人の「レクス」を求めました。
求めたものは、かえってきました。
ただ一人の「レクス」がそこにいました。
きっとそれは彼女にとってのハッピーエンドだったのでしょう。
王女コクランと願いの悪魔。
この物語はどこまでも王女であろうとしたコクランと
どこまでも悪魔であろうとしたレクスというニセモノ同士が出会い、
そうして、ただ何者でもないお互いを求め合う物語です。
寓話はおしまい。
そこに在るのは
ただの青年とただの少女コクラン。
続編が出ているようですが、個人的にはもうこれでハッピーエンド、としてあげたい気持が強いです。
だって、絶対に続編は二人にとって厳しい現実を突きつけるだけになりそうなので。
幸せのままページを閉じてハッピーエンドのまま物語を終わらせたい。
素敵な言葉を本文を抜粋
入江君人さんの言葉のセンスがとても好きです。
「まるでとけゆく雪の美だ。
落ちゆく日の最後の光だ」
この一文を読むためだけにも本を手にする価値はあると思います。
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