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生者と死者の交わり処『からくさ図書館来客簿 第二集 ~冥官・小野篁と陽春の道なしたち~』感想

読書感想メモ 小説
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あらすじ

京都の一角に建つ私立図書館「からくさ図書館」
館長である優しげな青年と可憐な少女が二人で切り盛りしている。
二人の正体は冥府の官吏で、善行を積んでいるのに未練があり
天道(天国)に行けない霊を導くために現世に出向してきている。
青年の名は小野篁。史実に「昼は朝廷の役人、夜は冥府の官吏をしている」と記されたその人。
そんな二人の元に訪れる客は「道なし」に関わる奇妙な悩みを持っている。
篁は彼らに一つの本を差し出す。それは相談者にまつわるすべての出来事が記された不思議な書物。
古都でひっそりと綴られる生者と死者の物語第二弾。

 

※旧ブログから修正・加筆しております。

1巻の感想はこちら

せつなくてやさしく、あたたかい『からくさ図書館来客簿 ~冥官・小野篁と優しい道なしたち~』感想
あらすじ京都の一角に建つ私立図書館「からくさ図書館」館長である優しげな青年と可憐な少女が二人で切り盛りしている。二人の正...

 

京都愛がほとばしる描写

舞台である京都季節の描写が細かくて、瞼の裏に浮かぶように繊細に表現されていてはー、「そうだ、京都へいこう」というキャッチフレーズが頭の中でリフレインします。

京都という街が好き、という気持ちが文章から伝わってきます。

今作には他の冥官が新たに登場します。

平安時代といったらこの人「安倍晴明」

様々な作品でひっぱりだこな安倍晴明と茜と名乗る時子の縁者です。
生前の時子との不思議な縁(えにし)がそこにはあります。

篁と時子との関係も少しだけ変化の兆しが見えるようです。

それは、親鳥の庇護下から飛び立とうとするひな鳥のようで、親鳥たる篁は複雑な心持ち。

時子は篁に同情されたくないと思っていますが、篁は彼女を「可哀想なお人」と見ている所があります。
時子の生前は(彼女もまた実在に存在した人物です)今の価値観からははかれませんが、それでも傍から見て幸福であった、とは言いがたいものです。
同じ時代を生き、彼女の早すぎる死を経験した篁もまた時子は幸せであったと感じられないのでしょう。

作品に登場するのは生者も死者もどこかで京都に縁深い人達。
からくさ図書館と冥官である小野篁は生者も死者も平等にあたたかく迎えいれます。
時に始末書を書くことになろうとも死者の願いを叶えようとします。

決して交わることのなかった古の人々と現代に生きる人々がからくさ図書館という不思議な空間ではともに在る。

死者が生きた年代はそれぞれ異なり、性別も生き方も違います。
でもひとつだけ善行を行っているのに心残りがある、という一点だけ共通点があります。

生者の方もいろいろです。
人力車をひく青年、幽霊が見えてしまう少女、嗅覚を失ったお香屋の娘、鳥好きの男性。
死者を受け入れようとする人もいますし、否定してしまう人も居ます。死者と意気投合する人もいます。

死者との交流は生者たちに少しだけ変化を与えます。
それは良い変化でもあり悪い変化でもあります。
あたたかいものもあれば切ないものもあります。

読み終わった後、あたたかで少しだけ苦い気持ちが沸き上がってきます。
やわくてやさしい物語です。

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