現世閻魔捕物帖 その地獄行き、全力阻止します!
イラスト:lack
出版社:マイナビ出版ファン文庫
出版日:2019/11/22
あらすじ
月海志遠は疲れ切った身体を引きずるように帰宅の途についていた。
二年前から彼氏の借金の質として興信所とは名ばかりのなんでも屋で悪辣な環境のもと働かされている。
身も心も荒びきっていた彼女の前に夜の繁華街には場違いな少女が現れ、お礼がしたいと半ば強引に酒処『地獄の沙汰』に招かれることに。
少女は閻魔大王を名乗り、地獄に人が増えすぎて獄卒たちが過労寸前、もう満杯なのだと訴える。だからこそ現世で更生の余地ある人間を探し、償いや贖いへの一歩を進ませるきっかけを与えているのだという。
繁華街の裏通りある酒処『地獄の沙汰』
そこは地獄行きになりそうな人間の心を癒やし、厚生を促す地獄の閻魔と鬼たちが営む居酒屋だった。
これは、
閻魔様と地獄の鬼が罪人に溢れた地獄を救うべく、現世にて悪人を料理と酒で更生させる世直し物語。
そして、ひとりの女性が怒りや憎しみを過去とともに切り離し、自らの人生を己の手の中に取り戻すお話です。
登場人物
月海志遠 (つきみしおん) 25歳
恋人の借金の質として興信所とは名ばかりで実際は犯罪ギリギリのことまでするなんでも屋で働かされている女性。
上司の人間性はクズ、激務。
その上、低賃金の職場で休みまともにとれないでいる。
仕事とはいえ自身も詐欺まがいなことに手を出したり、人の醜いことばかり見てきたせいか心は荒み、恋人への愛情は今はもうない。
心は荒んでいるが結局悪人にはなれない根が素直なお人好し。
帰宅途中、奇妙な少女に酒処地獄の沙汰に案内される。
蔵地耶麻子(くらちやまこ)
地蔵菩薩が化身。
十二天の一柱。
第百八代目閻魔大王。
の仮の姿。
地獄の罪人の増加と鬼手不足で獄卒たちは過労死寸前。
なんとかすべく現世にて悪人を更生させ、極楽に導くために人の姿をして現れたという。
見た目は六歳程度の少女。
何故か頑なにギャル小学生を演じようとするがうまくいかない。
どこか抜けていて、威厳のかけらもないが地獄に置いてきただけらしい。
志遠本人は善人であるが彼女の周りに地獄に堕ちる人間の気配を感じ接触をはかる。
二階堂智則(にかいどうとものり)
志遠の恋人。
友人の借金の連帯人になり、人質として志遠に興信所で働いてほしいと頼みにきた。
諸悪の根源。
クズの中のクズではあるが本人もまた愛した人に裏切られた過去を持つ。
クズなのに変わりはないが。
四ツ谷史郎 よつやしろう 28歳
ブラック労働上等の興信所の所長。
口が悪く、人間性も大変よろしくない人物。
あくどいことも平気でするが、ただ一人の家族である妹をおもいやるなど人間味のある一面も。
志遠にとっては傲慢不遜な上司司以外の何物でもないが。
篁響鬼(たかむらひびき)
閻魔大王の補佐官。
初代閻魔大王の時代から補佐官を務める。
整った容姿をしているが凄みがある美形であり、かつ表情筋が死んでるレベルで無表情。
『地獄の沙汰』では接客担当を務める。
耶麻子は上司にあたるが態度は慇懃無礼で辛辣。
とある理由で志遠と書類上夫婦になる。
司命(しみょう)
閻魔大王の書記官。
話すことに慣れておらず、カタコト。
見た目は厳ついく恐ろしいもの相貌をしているが礼儀正しく穏やか性格をしている。
司録(しろく)
閻魔大王の書記官。
司命とよく似た容姿をしているがこちらはカタコトではなくちゃんと喋ることができる。
酒処『地獄の沙汰』で厨房をまかされている。
料理は絶品。
リカ
四ツ谷の妹。
とにかくお腹が空きます!
読み進めていくと、とにかくお腹が空いてきます。
シンプルな料理の描写が丁寧で読んでるだけで口の中に味が広がる。
絶対、おいしい…
アルコール、苦手なのですが志遠が呑んでる描写をみてると「実はおいしいのかもっ!?」って思えてきて、呑みたい気分なります。
飲めませんが。
章ごとの後ろにお酒についての解説とおつまみの理のレシピも載って、気軽に自分でも作れそうなのもいいです。
※以下ネタバレあり
諸悪の根源は、
四ツ谷は登場時にほんとこいつクズじゃん、地獄行きってこの人確定では、と感じつつも、話を読み進めていくうちに「あ、これ悪いのは諸悪の根源こと二階堂智則じゃん?」と最終章になるまえに気が付きました。
恋人を質にいれたあとろくに連絡もいれない男がクズof theクズで決定ですよね。
志遠は、心はないといいつつもやはり「彼は地獄におちるようなことできる人ではない」っていう考えだったみたいですし。
なんだかんだいって、信頼している部分もあったのだと思います。
恋心はないけれども、わずかに情は残っていた。
その情すらもかききえるほどに二階堂の正体もやってることが最悪最低にクズでしたけど。
互いの救いになった志遠と耶麻子の出合い
地獄の鬼たちにとっていう俗人であり、善人である志遠との出会いは救いだったのかもしれません。
違法ギリギリの仕事内容に過労で倒れそうな日々に心が死んでいた志遠にとって『地獄の沙汰』の料理と耶麻子たちとの出会いは彼女たちは救いであったし、人生の契機となる運命の出会いだったのは間違いない。
でも、それは耶麻子たち、地獄の鬼たちにとっても救いだったのかもしれない。
当たり前に誰かを助け、見返りを求めない善行を行う彼女もまた彼女たちにとって救いであり希望だったのではないか。
優しさは誰かを困らせるし傷つけることも優しい人が損をすることもあるけれど、月海志遠のやさしさは彼女自身をも苦しめたけれど。確実に誰かを救ってもいた。
答えはない被害者から加害者への返答
地獄に堕ちろ、と思いはしても結局見放したり切り捨てたりできない志遠はお人好しで馬鹿みたいに素直な人間で、善人なんでしょう。
苦境に立たされて、頼るチャンスや甘えてもいいと誰かに許されてもひとりで立つことを選ぶ。
不器用だけど、きっとそれが彼女の強さ。
そんな志遠にさえ、「地獄に落ちろと真っ向面からいってやりたい」と思わせてしまったキングオブ座クズ二階堂。
でも最終的に志遠は彼との優しく甘い恋人同士だった思い出にくぎりをつけて彼への恨みつらみとともに切り捨てます。
(──こんなクズにはなりたくない)
「私はこんな人のために、嫌な人間にはなりたくない」
それが彼女の出した答え。
被害者である彼女が加害者である二階堂へ示した回答。
でも誰も彼もが志遠のように考えることはできない。
同じグズに落ちてもいい、地獄に落としてやりたい、と思ってしまうのが人情というもの。
だからやはり彼女はどこまでも心根が善人なんでしょう。
四ツ谷史郎という男
大きなきっかけとなったのは”地獄の沙汰”にいったことだけれども、前々から少しずつ志遠のひたむきさとか在り方に感化されていった部分もあるのかな。
四ツ谷も、善人とはいえないけど、根っからの悪人でもでもないんだろうと思います。
そうなるしかなかった。
そうしなければ生きていけなかった。
悪人にならざるをえない環境にあった人。
地獄の獄卒や閻魔大王が登場するけれどもこの話には根っからの悪人は登場しないのだと思います。クズはいるけれど。
クズであることに間違いないけれどクズにはクズになるに至った理由、耶麻子曰く因果があります。
誰もが悪人になりえて、善人にもなりうる世界。
四ツ谷がいい例だと思います。
もし親戚が彼のことも養育してくれたら彼は裏社会に足を踏み入れていなかったかもしれません。
妹が騙されていなければ善行を積むこともなかった。
誰もが悪人でも善人でもない。
誰もが悪人にも善人にもなり得る。
それが人間という生き物なのだと。
志遠は二階堂を許した、というか突き放した。
怒りや憎しみを手放すという選択肢を選んだ、選ぶことができたけど。
二階堂はそれができなかった。
かつて、彼は被害者でした。
騙され、踏みにじられた弱者でした。
でも、彼は、志遠のように怒りを手放すことができずに、自分を騙した女性すべて、の存在を貶め傷つけるという方法をとってしまいました。
被害者から加害者になってしまったのです。
善人から悪人になってしまったのです。
どうすべきかという社会通念、倫理的、社会的な正しさはある程度の決められているけれども。
被害者と加害者の関係性、その感情のあり方にたった一つの絶対的な答えはありません。
志遠は怒りを手放すことを選んだ。
二階堂は許せなかった。
でも罪は罪。かつて被害者だろうと。それは変わらない。
それでも、罪は償うべし、
罪には何らかの罰が伴うものというもの(善行を積めば軽くなる)は作中でも一貫して語られているように思います。
閻魔大王の耶麻子さえ、神ではないのに人を裁いていると罰を受けているからです。
物語の最後で志遠も四ツ谷もリカもいろいろなものから開放されて新たな道を歩み出せたのはよかったです。
最終的には探偵事務所は続けることになってしまったけれど。
続巻が出てるならぜひ読みたいです!
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