『ロード・エルメロイII世の事件簿1 case.剥離城アドラ』
※軽くネタバレありご注意ください。
著者:三田誠
イラスト:坂本みねぢ
あらすじ
「……ある意味で、現代の魔術師とは、天使を蒐集する職業だといってもいい」
『時計塔』。
それは魔術世界の中心。
貴い神秘を蔵する魔術協会の総本山。
この『時計塔』において現代魔術科の君主(ロード)であるエルメロイII世は、とある事情から剥離城アドラでの遺産相続に巻き込まれる。
城中に鏤められた数多の天使、そして招待者たちそれぞれに与えられた〈天使名〉の謎を解いた者だけが、剥離城アドラの『遺産』を引き継げるというのだ。
だが、それはけして単なる謎解きではなく、『時計塔』に所属する高位の魔術師たちにとってすら、あまりにも幻想的で悲愴な事件のはじまりであった──。魔術と神秘、幻想と謎が交錯する『ロード・エルメロイII世の事件簿』、いざ開幕。
魔術師が仕掛けて、魔術師が紐解く、奈須きのこが形作った世界で三田誠が紡ぐ魔術世界のミステリー。日常生活においての常識?
そんなものは捨てしまいましょう。
ミステリー要素としては、孤立した陸の孤島、館で起こる連続猟奇殺人、というところでしょうか型月ワールド×ミステリー、とにかくいろんな含蓄がすごい。まくしたてられる。
主要登場人物
ロード・エルメロイII世
探偵役。
Fate zeroにてライダー陣営のマスターとして第四次聖杯戦争を生き残ったウェイバー・ベルベットが成長し、ロード・エルメロイの名を継いだ姿。
現代魔術科の講師をしてる。
個性豊かすぎる生徒を抱えてる苦労人で葉巻とか吸ってる渋い男に成長しました。
でも、彼の本質はあの時から変わっていない。
魔術を愛しているが、魔術の破壊者とも評される。
グレイ
助手役。
ロード・エルメロイII世の内弟子で助手。
なにやら事情もちな今作のアルトリア顔。
ハイネ・イスタリ
ロザリンド・イスタリ
教会から出戻り英国紳士な青年と可憐で気弱な美少女の。
じじい(オルロック・シザームンド)
蟲とじじいの組み合わせには嫌な思い出しかなかったからうたがいしかなかった正直すまんかった
フリューガー
中東系の占星術師。
時任次郎坊清玄
日本人の修験僧。
化野菱理(あだしのひしり)
美しいきものを纏った時計塔、法政科(ほうせいか)所属の魔術師
法政科は神秘を求めるのではなく現実社会への介入や時計塔内部での均衡を調整する異端の科。
ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト
『プリズマ☆イリヤ』でお馴染みのルヴィアさん。
今作では魔術師としての苛烈な側面が強直して描かれているので正直イリヤでの彼女とのギャップに驚きました。
士郎や凛に対するルヴィアしか見たことがなかったのでギャグ要素なしの敵対心満載のルヴィアさんには背筋が正される思いです。
彼女はまさしく貴族として在る。
誤解と誤認の物語
作中冒頭にあったようこれは、
誤解と誤認の話
です。
基本的にグレイというロード・エルメロイⅡ世の内弟子の少女視点で物語は進んでいきます。
どういう成長をしたのか少女とも見違えるほど(?)かわいらしい男の子だったウェイバー・ベルベット君は眉間のシワが深い苦味切ったロード・エルメロイII世という男に成長しました。
彼は内弟子のクレイをつれて剥離城アドラを訪れます。
亡くなった城の主の遺産がとある目的のために必要だったからです。
代理人である化野菱理に、告げられたのは天使にまつわる謎解き。
これを解いた者に遺産が譲渡されるのだとざわめき、様々な思惑を抱える参加者たち。
しかし、とある夜を皮切りに惨劇が起こります。
ホワイダニットが重要
この作品の中で重要なのは、ホワイダニット、なぜそうしたのかという動機のみでその他のどうやって殺害したのか、誰かやったのかは重要ではありません。
動機を探ることで自ずと導かれるものです。
誰か、どうやって、の部分を推理するだけ無駄だからです。
Fateシリーズにおける魔術の世界は神秘と幻想の世界。
魔術師の世界はいってしまえばなんでもあり、どのような魔術があり、どのような現象を起こせるのかは推察するしかありません。
普通のミステリーのような犯人と犯行方法は当てはめることはできない。
でも動機ならば、それは魔術師の本質にもっとも迫ったものだから読み解くことができる。
ロード・エルメロイII世によればホワイダニットを紐解けば魔術師の本質に迫ることができる、それほど作品内ではホワイダニット(動機)に重きを置いています。
愛憎と繋がり
剥離城アドラでは、繋がりと愛憎と誤解と誤認の積み重ねで悲劇やすれ違いが起きてしまいました。
魔術師の家に生れてきて幸か不幸か兄妹仲の良いイスタリ兄妹。
兄を尊敬していた時任。
ある女性を心から愛していたオルロック・シザームンド。
そこには絆があり、傷がありました。
魔術師にとって親兄弟ではさえ時には殺し合う対象となりえます。
でも今回の登場した魔術師にとって、家族は特別な意味を持っていた。
今回の事件の犯人も動機、そこにあるのはちりばめられた誤解と誤認。
彼女が死んでしまったという誤認
招待状の意図の誤解
謎解きの真意の誤認
父親に対する誤解
儀式の裏にあったものに対する誤認
文章にならなかった言葉
最後の霧に包まれた精神世界で一人称が”私”から”僕”になるのだめほんとだめ
あそこだけはロード・エルメロイII世ではなく、かの王と共に聖杯戦争を駆け抜けたウェイバー・ベルベットとして応えている。
彼は星を追っている。
届かないと知りながらも。
もう、答えは得ているとしても。
あー、Fateや…
Fate シリーズを知っていれば彼の願いが叶わぬことは知っているけれどそれが絶望ではないことを祈る。
あー、ここでも愛なのか。
慈しみなのか。
魔術師なりの親の愛夫の愛。
いびつなそれはいびつな結末を産んだ。
魔術に関する含蓄がすごく量で襲いかかってきてそこに型月世界ワールドが独自理論で殴りかかってきて、とりあえずものすごい作品でした。
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