僕は君を殺せない
作者:長谷川夕
イラスト:loundraw
出版社:集英社オレンジ文庫
発売日:2015/12/22
出版社:集英社オレンジ文庫
発売日:2015/12/22
表題の長編だけではなく、「Aさん」「春の遺書」という2つの短編も収録されています。
この二作は「僕は君を殺せない」に関係はなく独立したお話です。
あらすじ
問題:だれが「僕」で、だれが「君」でしょう? 夏、クラスメートの代わりにミステリーツアーに参加し、最悪の連続猟奇殺人を目の当たりにした『おれ』。最近、周囲で葬式が相次いでいる『僕』。――一見、接点のないように見える二人の少年の独白は、思いがけない点で結びつく……!! すべての始まりは、廃遊園地にただよう、幼女の霊の噂……? 誰も想像しない驚愕のラストへ。二度読み必至、新感覚ミステリー!!
ミステリー、一人称、男主人公、復讐劇
なんとか生き残れたものの、連続猟奇殺人に遭遇してしまった「おれ」と周囲で葬式が相次いでいるが、通い妻年下彼女というなんとも羨ましい恋人を持つ「僕」。
一見、接点もなにもないように見える二人の視点が交差して、あるひとりの人物の復讐劇を描き出します。
ミステリーを読み慣れている人からすれば予想できる展開、ではあると思います。
正直、あらすじや帯の「○○絶賛!」という言葉で期待値を上げて読むと少々拍子抜けしてしまいます。
幽霊とかそういうのも、もうちょっと伏線があるとよかったです。
以下ネタバレ注意!
静寂に満ちたしんしんと降り積もる雪のような美しい文章
文章はとても美しいです。
表紙の雪に横たわる少年のようにな。
儚げとどとかアヤシさを匂わせます。
どこまでも静謐で淡々としていて、舌の上で溶けてしまう淡雪のよう。
あとには水の味とはかない冷たさと痺れを残してく。
まさに、ただひたすら復讐を続けた”彼”のようです。
「僕」は淡々と美しい、透明な狂気、という言葉が当てはまります。
「おれ」はまっとうな普通の少年です。
まっすぐに育ってまっすぐに歩いていこうとしている。
そんな感じをそれぞれの独白シーンで感じます。
「君」は「誰」でしょう?
”僕は君を殺せない”
の君は二人にかかっていると思います。
「僕」は言わずもなが。
「君」は「彼女」と「彼(おれ)」
「僕」にとっての最愛の人と、幼い頃憧れたヒーロー。
何人もの相手を手にかけてきた僕にとって決して殺せない相手。
どちらとも、もう少し早く出会っていたら何かまた”僕”が歩む人生は変わっていたのではないでしょうか。
幼い頃、彼の父親が自殺する前、母親を手にかけてしまったさいにもう歯車は狂い始めてしまっていて、どうしようもなかったのかもしれません。
「僕は君を殺せない」は復讐劇
まとめてしまえば、これは「僕」の復讐劇です。
母親の不倫を発端として、父を冷遇し自殺に追い込んだ当時の関係者たちへの。
父が遺言書と一緒に残したリストに乗った関係者たち。
でも、その中にあった母の不倫相手の男の娘を「僕」は殺すことができなくなってしまった。
「おれ」に対しても深く掘り下げてほしかった
僕に対しては過去に関しても心情に関しても深く掘られていますが、対して「おれ」に関してはあまり描写されていません。
最後の方の「あ、実は視える方で…」というのも突然出てきて「???」となりました。
断片的な情報から拾うに両親から虐待を受けて妹はその頃からずっと意識不明で入院。
田舎なので新聞で大々的に報じられ、地元では有名人。
その記事を見て「僕」は「おれ」に憧れをもった。
とうことなのでしょうか。
レイの記憶喪失
レイが記憶喪失になったのは冷凍庫に閉じ込められて、酸素が薄くなり酸素欠乏症になってしまったから、ではないかと思います。
たしか記憶障害を引き起こすこともある、と聞いたことがあります。
専門家ではないのでたしかなことはいえませんが。
ロマンチックに考えると「僕」がレイのリボンとともに「僕」と過ごしたレイを連れて行ってしまったのかな、と思います。
レイと過ごす日々は過酷な人生を送ってきた「僕」にとってはじめての安らぎのときだったでしょうから。
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